2014年3月2日

ワシントンヤシ属のヤシ2種、Washingtonia filifera と Washingtonia robusta




ヤシの木観察に目覚めて一ヶ月余り。違いがちっとも目に入らなかった最初に較べて、だいぶ目が肥えてきました。今のところ自分の住んでいるところ周辺で、大きいヤシは、ざっと六種類は言えるし見分けられるようになりました。自慢してもいいかな。

その中で、最もカリフォルニアらしいヤシ、ワシントンヤシ属のヤシ2種類を、今回記事にします。


ところで、これらのヤシの名をどう呼ぶか迷いました。日本ではワシントンヤシという言葉があり、これはどうも  Washingtonia filifera を指すようですが、もう一方の Washingtonia robusta も含んでいたり、いなかったり、はっきりしません。英語では、それぞれにいくつかの名前がついています。以下にまとめると:

学名: Washingtonia filifera(ワシントニア フィリフェラ)
   糸状の繊維がついているワシントンヤシ属の植物の意
   日本語名 ワシントンヤシ、シラガヤシ、オキナヤシ
   英語名  California Fan Palm, Desert Fan Palm, Petticoat Palm, Cotton Palm


学名: Washingtonia robusta (ワシントニア ロブスタ)
   丈夫なワシントンヤシ属の植物の意
   日本語名 ワシントンヤシモドキ、シラガヤシモドキ
   英語名  Mexican Fan Palm, Skyduster

英語名はいずれも特徴を捉えた、なかなかいい名前と思いますが、カタカナで書くのはわずらわしい。日本語名はどうもぴんとこないし、一定していない。何より、あの独特の、空を背景にそびえるロブスタさんがモドキよばわりされているのは気に入らない。

なので、いっそのこと、学名で表記することにします。
学名表記の習慣に基づいて、属名は頭文字だけを使い、W. filifera と W. robusta。

この記事を読み終える頃には、それぞれの名前に親しみをもってもらえるようになることを期待しています。



1. では、まず典型的な姿から


W. filifera (W. フィリフェラ)
安定して、真っ直ぐ立っている。
これは、特別おしゃれなフィリフェラさん。樹冠の下のふくらみは、剪定時に葉の基部を揃えて残した飾りと思われる。
2014年2月21日 La Palma Ave. Buena Park  CA





W. robusta  (W. ロブスタ

とびぬけて背が高い。ひょろひょろ感がたまらない。
立っているのが信じられないような細さと長さながら、強風で大揺れしても、まず倒れることは無いそうな。
2013年12月 Orange Ave. Cypress  CA







上の木を別の角度から見たもの。別名 Skyduster (空はたき) の名にたがわぬ姿。
2014年3月1日 灰色の空は、今のカリフォルニアにはうれしい。前日からの大雨で大干ばつが少しは改善するか。 





以上のように、大きく育った木は、特徴がはっきりして見分けがつきやすいのですが、若い木は分かりにくいです。実際、どちらか決めがたい場合は、多々ありました。

それでも、とにかくワシントンヤシ属として際立った共通の特徴があります。それを挙げてみましょう。



2. 共通の特徴

1)ほぼカリフォルニア原産の砂漠のヤシ

南カリフォルニアの街路樹は、地球の反対側が原産地なんていうのが多いが、この2種は、W. filifera は間違いなくカリフォルニア原産、W. robusta もメキシコの砂漠の原産ながら、カリフォルニアでも自生の可能性も充分あるらしい。それがはっきりしないのは、人が植えたのが先か、人以外の動物が種を運んだのが先か分からないから、とのこと。

乾燥、高温、さらに寒さにも強い。フィリフェラの方は、何と、湿気や水はけの悪さで枯れることがあるそう。

2)直立し、成長が速く、非常に背が高くなる


どちらも、年に1メートル以上のスピードで伸び、W. filiferaは20メートル、W. robustaは30メートルぐらいまで達するそう。
平たい地形のカリフォルニアで景観にアクセントを添え、観光資源としてなくてはならないのじゃないかな。日陰の役にはたたないけれど。

3)葉のこと、いろいろ

一般的にヤシ科の葉には、羽状と掌(てのひら)状があるが、ワシントンヤシ属は掌状。ちなみに、英語でヤシを表すpalmは、手のひらの意味でもある。

掌の指に当たる葉先は、若い木ではピンと伸びているらしいが、普通は深く裂けて垂れ下がる。はるか頭上の葉は垂れ下がり方で羽状のように見えることもあるが、カメラのズームなどで見ると、掌状とわかる。

葉柄の両側には鋭いギザギザの歯がある。葉柄から掌状の葉まで含めた長さは人の背丈の1.5から2倍くらい。高いところにあると見当がつきにくいが、ずいぶん大きい。

葉は、先端から新しいのが出て、古い葉は次第に下方へ下がって枯れる。幹にぶら下がった枯れ葉は、街路樹の場合放置しておくと強風で飛ばされて危険なので、市が定期的に剪定する。

市による剪定は、葉柄の基部ごと除去して幹を露出させるのが普通のようだが、基部を残すこともある。特に上のW. filiferaの写真のように装飾的理由があることもありそう。


特別の道具を使わずに 葉柄を切った場合、基部が幹に残り、長い間くっついている。下の写真は、一般住宅前庭のW. robusta。 葉柄基部が残っており、また、一部剥落している。
2014年2月19日 Syracuse St. Westminster  CA



上の写真の木の根元





葉柄の基部は、ワシントンヤシ属に特徴的に、二股に裂けており、見かけがよく似た別の種類との大きな区別点になる。

下の写真は、葉柄基部を残して剪定された W. robusta (たぶん)。
かろうじてつながった逆V字型が一本の葉柄の基部であり、それらが規則正しく並んで斜め格子のようなパターンが幹にできる。
2014年2月26日 Colgate Ave. Westminster  CA






2014年3月1日 Holder St. Cypress  CA

左の写真は、遠くから見て、若いW. filifera かと思った。












2014年3月1日 Holder St. Cypress  CA

でも、葉柄基部が明らかに違う。おそらくGuadalupe Palm
Brahea edulis)と思われる。












もしワシントンヤシ属のヤシの葉を剪定しないで放置したらどうなるかというと、強風にさらされなければ、こうなる。
2014年1月 El Dorado Park, Nature Center, Long Beach  CA


枯れ葉が積み重なって幹を覆っているところは、“スカート” あるいは “ペチコート” という。特にフィリフェラさんはよくスカートをはいているらしいが、上の写真のように、明らかに、ロブスタさんも細長いロングスカートをはく。

このスカートは、フクロウやネズミの棲家になるらしい。また、カラカラに乾燥しているので、火事のとき延焼しやすく危険とのこと。



4)花と実

追記:花の写真はもっといいのがこちらでみられます。

花と実は両者のヤシと も、そっくりとのこと。

一つの花に、オシベとメシベがついている。他の種類のヤシでは、雄花と雌花が一本の木につくものや、オスの木とメスの木があるものもある。

実際に確認したのは、下の写真W. robusta の白い花のみ。かなりのズームで写してます。
細い枝のようにツンツン突き出しているものは、花の柄。

果実は、直径1 cm 前後の小さい黒色で、食べられるとのこと。多分人間ではなく、鳥や動物が食するのでしょう(でも、非常食にはなるかも、覚えておこう)。
2014年2月23日 Orange Ave. Cypress  CA



3. 両者の見分けかた

W. filifera は、幹が太く、真っ直ぐに伸びる。葉は、robustaに較べて緑色がやや淡く、大きさは一回り大きい。樹冠は、葉が込み合ってなくて、ややばらけた感じがする。さらに(私は、確認していないけど)若い葉で特に、葉の縁から白い糸状の繊維がほころび出たようになっている。

W. robustaは、幹が細い。さらに特徴的なのは、ほぼすべての幹がゆるく曲がっていること。沢山並んでいる街路樹では、皆同じ方向にカーブしているので、風の向きが影響しているらしい。葉は濃い緑色で、樹冠がコンパクトに密集している感がある。


さらに、葉柄の基部は、W. robusta では、濃い茶色になっているが、filifera では、着色がなく、緑色である。ただし、これは分かりやすそうでわからない。
大きく育ったヤシでは、遠すぎて色まで見えない。葉が低いところにある場合、なかなか典型的な着色にお目にかからなかった。葉柄の縁のギザギザの歯のところだけが茶色いものもあった。これは雑種(filibusta)だったかも。
個人の庭先に、若いワシントンヤシかなと思うものもあったけど、庭に入り込んで葉っぱをかき混ぜるのはためらわれた。




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何度も、実物のヤシを見に行って、また参考資料を読み返してを繰り返し、だんだん見分けられるようになりました。そのプロセスはなかなか面白かったです。

とにかく、大きく成長したものは、それこそ ”佇まい” が確立していて分かりやすいです。

若くても、葉の基部などに手が届き、詳細に観察できれば分かるはずですが、そんな小さいものには出会いませんでした。

それはつまり、街路樹用のヤシは、業者がまとめて育て、かなり背が高くなってから移植されるためと思われます。


個人の庭先にも、よくこの種類のヤシを見かけます。どこからか種が落ちて小さな芽を出したのを放置したか、あるいは何か考えがあって植えたのか分かりませんが、いずれにしても持ち主は後悔しているんじゃないかなと思います。大きくなれば、剪定にはちゃんとした道具を持ったプロが必要で値段が高そうだし、除去するにもかなりの経費がかかりそう。

ちなみに、カリフォルニアの各市は、勝手に生えたこの種類のヤシの除去にかなりのお金をつかっているとのこと。


私の住む、比較的海岸に近いところは、海からの霧が湿度をもたらし、また、水はけの悪い湿地も点在するので、乾燥を好むW. filifera にはきびしい環境かもしれません。実際、見慣れてくると、W. robustaの数の方が圧倒的に多いです。

W. filifera と W. robusta の雑種である、filibusta(フィリバスタ) がすでに販売されていることを発見しました。もう、この辺にも植えてあるのかしら。わかりません。雑種は悩ましい。
(3月25日追記:W. filibusta は、より寒さに強いfiliferaの性質とより湿気に強いrobusta の性質を併せ持つとのこと。主に、雨が多くて寒いオレゴン州やワシントン州に植えられているらしいです。)


その他に自然にランダムに交配して種が落ちて育ったワシントンヤシ属雑種がいくらでも存在するらしいのですが、街路樹ウォッチャーとしてはそこまで悩まないことにします。






以下のサイトがものすごく助けになりました。
こんな、言葉による徹底的な説明は、さすがアメリカ人だと感心します。

Dave's Garden

    Washingtonia Palms: Wonders or Weeds?

    By Geoff Stein

    December 8, 2010
    http://davesgarden.com/guides/articles/view/3066/#b

次は、フェニックス属のヤシのことを書く予定です。



関連記事
2014年3月9日 ロサンゼルス市における メキシカン ファン パーム (W. robusta )の興亡


2014年9月7日 勢い盛んな季節が過ぎて、ワシントンヤシ2種、W. filifera と W. robusta

5 件のコメント:

  1. はじめまして^^

    僕もフィリフェラとロブスターが大好きです^^家の庭に大き目のを2本植えてあります、またパームスプリングスのインディアンキャニオンのフィリフェラの自生地で種を拾って来て発芽させて鉢で育てています、最初大きな糞の中に種がたくさん入っていたので何の糞かと思いましたら、コヨーテの糞でした、LAのベバリーヒルズホテルに日本から毎年20年間泊まり続けて、べバリーヒルズホテルはロブスターの中に建ててありますので、やはり種をたくさん拾って来て発芽させました^^

    べバリードライブなどにはロイヤルパーム、カナリーヤシとロブスターの伸びきったのが植えてあり見答え抜群ですよね^^ここに植えたのはホテルが出来た1912年ごろですが、

    東京でも街路樹になっていてそこから落ちた種があちらこちで発芽して大きくなっていますよ、
    雑種もありますが、伊豆などでは凄い勢いで生えてきています、
    日本では九州の指宿で大量に生産しているそうです。
    千葉でも結構大量に農家が作っています。

    インディアンキャニオンの他にもアンザボレゴ国r立公園やジョシュアツリーナショナルパークでもフィリフェラは自生しているそうですね^^
    また自然のワシントンヤシを見に訪れたいですが

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  2. コメントうれしいです。
    ソルボンヌさんのワシントンヤシ好きはずいぶん年季が入っていらっしゃいますね。私はまだ一年の初心者です。その分、新しい発見があって楽しいですが。
    何しろ運転が苦手なので、住んでいるところの近場で済ませるつもりで始めたツリーウォッチングですが、パームスプリングスのフィリフェラ自生地にはいつか行ってみたいです。フィリフェラ、本当にいいですよね。それからビバリーヒルズ辺りも、シティーハイキング(私の造語)したくなりました。

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  3. 昔初めてLAに行った時にワシントンヤシに魅せられました^^
    でも良く短期間に2種のワシントニアを調べられて素晴らしいです^^カリフォルニアを代表する椰子の木だと思いますし、カナリーヤシや女王ヤシとは迫力がちがいますよね^^僕が最初に興味を持ちましたのはイーグルスのホテルカリフォルニアのジャケット写真からですが、ベバリーヒルズホテルのですが、メキシカンパームの中にホテルカリフォルニアが建っているんですね、でもこのヤシの木逗子マリーナにもあるなぁ~と、まさか種から簡単に発芽するなんて当時は思いませんでしたから、ワシントンヤシの木の下に行くとうさぎの糞ぐらいな小さい種が大量に落ちていますので、是非拾って鉢に入れて育ててみて下さい^^
    前にお台場で種を拾っていたら、何してるんですかぁ~っておじさんが来て、この木になるんですよ~って教えてあげたら、その人大量に拾っていきました^^鉢なら大きくなるのも限度がありますし、
    インディアンキャニオンの自生地は迫力満点です、お化けみたいなフィリフェラがあります、でも真夏は暑すぎて、今頃の季節の方がいいと思います、アンザボレゴもたくさんあるみたいでいつか訪れたいですね、ラスベガスの近くのレイクミードにも自生地があったのですが、当時は知らなくて行きませんでした、もったいなことをしましたが、バハカリフォルニアのフィリフェラの自生地に行く温泉キャンプツアーもあるそうです、フィリフェラの自生地でキャンプして温泉に入るパームオアシスは人気があるそうですが、僕の年齢で自分達でテントをはってキャンプするのはちょっと大変なのでためらいますが、行ってみたいです^^
    是非またワシントンヤシのレポートを続けて下さい^^
    写真もたくさん乗せてほしいです、日本にはフィリフェラの本物は中々ないのが現状です、フィリフェラモドキのような交配種みたいな感じです、フィリバスタって交配種の雑種の名前面白いです^^
    ワシントンヤシはフィリフェラとロブスターの2種に限定したとありますが、ロブスターの中でも微妙に葉っぱが違うのがあります、もっと種類があるようにも思われますが。
    カリフォルニアは元々メキシコだったところなので、バハカリフォルニアでも自生地があるのですが、ロブスターはソノラ砂漠が自生地とありますが、アメリカ側にソノラ砂漠があるんでしょうか?

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  4. 沢山書き込んで下さってありがとうございます。
    自分が知らないことがまだたくさんあるようで、これから楽しみです。
    今のところ、ユーカリの仲間にちょっと心を移していますが、ユーカリは難しすぎて入り口でウロウロしています。その点、ワシントンヤシは地元のヤシということもあって、分かりやすく親しみやすく、本当に知り合いになった気がしています。
    私の調べた範囲では、ワシントンヤシ属にはフィリフェラとロブスタの二種類だけだと理解しているのですが。もしかしたら園芸品種がいろいろ出来ているのかもしれません。

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  5. こんばんわ~^^
    元々雑多な説があったワシントンヤシですがベーレはフィリフェラとロブスターの2種に限定したとありますから、2種類しかないんでしょうね、2種の交配種の雑種が世界中にあると言われていますが、ロブスターにしては幹が太いなぁ~と思われるのがフィリバスタなんでしょう、微妙に形が違いますから、ご指摘のとおり、LA界隈でロブスターはあちらこちらで生えていますが、フィリフェラはほとんど街中で自然に生えているのは見かけませんでした,
    ベバリーヒルズ界隈にはフィリフェラはたくさん植えられていますが、それでも見かけません、種から発芽をさせた場合、ロブスターと同じ確立で発芽していましたので、発芽率が悪いとは思えませんが。インディアンキャニオンではものすごく小さいフィリフェラも発芽していますので是非見に行って下さいね^^
    ベバリーヒルズホテルは2012年で100周年になりましたが、メキシカンパームはその時にある程度大きなのを写真で見ると植えました、10年物ぐらいのでしょうか?そうしますと後40年以内には全部枯れ死すると言うことになるんでしょうか?
    ホテルのレストランポロラウンジの中庭にあるブラジリアンペッパーと言う大木が3年ぐらい前に枯れたそうです、ホテルのレッドカーペットの入り口に2本だけフィリフェラがありますが、後は全部メキシカンパームです。
    LAでは一般に何処にでも街路樹になっていますのであまり家庭の中に飾る園芸品種としての価値はないんじゃなかととも思いますが、どうなんでしょうか?

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